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2016年2月14日 (日)

最後の授業

  私の大学での最後の授業 (大げさに言えば 「教育畑に生きてきた人生最後の授業」) が昨日終わった。
 参加者10名に過ぎない少人数授業だったが、参加者からは感動をいただいた。
教育に生きる者の冥利に尽きる至福だった。
 ここでは、授業内容を、実況中継風に (記念の備忘録として) 少し詳しく公開する。

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2016年2月13日土曜日、最終講 「ジェネレイティブファシリテーター論」

授業の流れ
1 オープニング・トーク
2 チェックイン&サークル
3 解説
(1) generative をめぐって
   ~4種類の話し方・聴き方、5分間の沈黙、プレゼンス
(2) OUR Project としての Future Session
   ~対話の手法の整理(3フェーズと3要素)
   ~フューチャーセッション設計のモデル(例)
(3) 問いの立て方
   ~対立的な構造を紐解く
   ~弁証法的思考の展開
4 ワーク
(1) 問いを立てる
(2) 年度末フォーラムでの generative
(3) 年度末フォーラムでの問い
5 まとめ
6 チェックアウト&サークル

1 オープニング・トーク

開発教育/ファシリテーターに関わった私の原点 ・・・

県立高校教員(社会科政治・経済)時代から、開発教育へ

専門は経済だが、当初実践にしようとしたのは平和教育

どうしたら平和が実現できるのだろうか?

システム思考的に社会をとらえると、社会システムは、次の3層でできている
現象:対立、紛争、テロ、戦争
パターン:
構造:

底に潜む物質的構造は、経済循環をパターンとして ”需給バランス”
ケインズ経済学的には、恐慌解決にはニューディール政策では足らず戦争が必要だった

需給のアンバランスを修復する究極の有効需要は戦争
経済のゆがみで、政府も産業も戦争を望むことに追い込まれる (儲かる側面も)

もうひとつ底にあるのは、精神的構造(メンタルモデル)としての文化=価値観の問題

足りない (足るを知らない) から、経済を膨らませたい!幸せになりたい!
という人々の心が、偏狭なナショナリズムの排他性を伴って戦争を起こす。

そこに見えてきたのが 「構造的暴力」
抑圧の下はびこる差別、偏見、暴力は納得できない。

ここに取り組む教育として、平和教育でなく開発教育
「構造的暴力をなくすための教育」 としての開発教育に嵌った
これこそが、自分にできる平和運動だった

さて、教育現場の現実は、知識を身に付けることが中心
残念ながら、「構造的暴力」 を探求するような思考を発展させる教育ではない!

そこから、受験教育の現実に立ち向かい
基礎知識を重視しながらも、参加型で考え (気づき) を深めるファシリテーションへ
ラーニング・ファシリテーターとしての教師の重要性へ

これがビジョンというものだが、未だに、ファシリテーションの普及は道半ばにある

けれども、今日では、アクティブ・ラーニングを導入する世の中になりつつある
日本の学校現場に 「あるべき未来」 が出現しつつある


ADコースは、更に深めて、普遍的ファシリテーションのあり方を追求してきた。

2 チェックイン&サークル

サークルをつくろう!

テーマ 「そもそも、ジェネレイティブ・ファシリテーターの generative とは?」
訳せば、生成する、創発することだが、どんなイメージで授業に臨んでいますか?

難しい理屈ではなく
、イメージとしてどう捉えていますか?

A 潜在的なものを引き出し、高次なものを生み出す
B 集合知の活用
C 化学反応
D 新しいアイデア
E 繁殖
F 今までにないものを生み出す
G 陽の当たらないところに陽をあてる
H 変化
I  話をしている相手の気づいていない面を引き出す(ジョハリの窓的に)
J 傷を負ってでも探しだす

3.解 説

  それでは、これまで学んできたアダム・カヘンの視点で整理してみましょう。
ADコースの3大文献は、次の三冊です。(座右の書にしてください)
A.カヘン 『手ごわい問題は、対話で解決する』 (2008)
野村恭彦 『イノベーション・ファシリテーター』 (2015)
O.シャーマー 『U理論』 (2010)

そこで、『手ごわい問題は、対話で解決する』 の第14章を紐解きましょう。
キーワードは:「5分間の沈黙」(p.176) & 「プレゼンス」(p.191)

176頁のグァテマラでのストーリーテリング:
・・・内紛、紛争、大量虐殺現場で小さな骨が大量に見つかった。
残虐にも、骨を打ち砕かれた死体の骨か?ときくと、
そうではなく、妊娠した女性たちの死体、その中の胎児の骨だった。

・・・このあとに、深い 「5分間の沈黙」 が訪れた。

各自のバラバラの理解から、全体としての
真髄を感じとる5分間だった。
理屈ではない、理屈を越えた神秘的なものを感じとり、全体の一部になる。

スピリチュアルな世界にかかわる部分、大きなものにふれてこそ創発ははじまる。

人間は、物事の根源にふれる必要がある。

さらに、188頁、190頁へと読み込みを進めよう。
→ 一体的な、集合的な、コミットメントする源の部分が重要だ。

この聖的現象を 「プレゼンス」 という (U理論のキーワード)

ここに至らないと、ほんとうのチームにはならない。
チームが未来を出現させることは難しい。

refrective dialogue レベルは、傾聴、共感が基本として大切。
generative dialogue レベルでは、互いの内にある聖なるものにふれる。

ここが、基本のコースと応用のアドバンストの違い。
付け加えると、アドバンストのレベルに達することで、実践がより現実的になる。
教育的レベルを超えて、社会的実践につながるから。

U理論で整理すると、基本となる 「つかみ」、「本体」、「まとめ(ふりかえり)」
これらはUの字の左側の営み。
これだけでは、みんなでコミットメントして次に向かうところまで至らない。
教育は、気づきを重視したり、解なしでオープンエンドに考え続けることが大切。

これを超える視点を提起するのが、O.シャーマーのU理論、A.カヘンのシナリオ・プランニング、そして日本の野村恭彦氏の提唱するフューチャーセッション。

ほんものの 「課題解決ファシリテーター」 に進化するには、
「ワークショップのためのワークショップ」 を超えて、Uの字の右側を上がる営み、
つまり、
次に繋ぐ~フォローするプロジェクトの組み込みが重要だ。

4.ワーク

ワーク1

「ワークライフバランス」を考える問いを考える (『イノベーション・ファシリテーター』p.42-)

2グループで、仕事と生活という二項対立を超える問いを発案する
縦に並べた二項対立を横に並べなおして考えてみる練習:

→ 結論としての問いを各グループ3つずつ発表 (括弧内はドット投票結果)
ドット投票は、ポストイットで1人1票、黒板に張り出した

1) あなたの理想の週休は何日ですか?(2票)
2) あなたの居心地のいい場所は?(2票)
3) あなたは居場所をいくつ持っていますか?(2票)
4) いくらあれば納得のできる暮らしができるの?(4票)
5) 地球にも人にも優しい暮らしって何?
6) そもそも仕事と暮らしって別物?

ワーク2

年度末フォーラムの、生成したいものは何ですか?

→ ネクストステップ
その他の表現:個人的欲求、潜在的欲求、未来への望み、次に繋がる場

ここで、直球から一捻り

二項対立を「未来」対「現在」とすると、
マトリクスした各項目のプラス面は、
「皆で未来に生み出す」対「現在の仕事に一生懸命」
マイナス面は、
「ゴールやニーズが一致できない」対「個別でバラバラ」

ここからの直球テーマが 「Next Step」だが、
もうひと捻りして、多様性を広げる問いは?

(ファシリテーターからの助言)
時間的な対立軸を超えるものは?
みんな自分のことで精一杯の自分がいる。
各自がバラバラで仕事しているが、どうやったら繋がるだろう?
いかに自分事としてコミットメントできるか?
ゴールはどこか?
それは必要なのか?

→ 結論としての問い (カッコ内はドット投票結果)
1) あなたは自身や社会に満足ですか?(1票)
2) 今のままでいいの?(4票)
3) あなたは何者?(2票)
4) あなたの探しもの、ここにあります。
5) あなたの□□活かしませんか?(1票)
6) あなたの今は何色ですか?(2票)

「今のままでいいの?」 が多数決では決まったが、この問いでいいか?
もっと洗練する余地があるのではないか。(検討課題)

5 まとめ

イノベーション・ファシリテーターになることが、
ジェネレイティブ・ファシリテーターになること
そして、本物のラーニング・ファシリテーターになること

ADコースのキーコンセプトは、
「ホールシステムアプローチ」・「ダイアローグ」・「学習する組織」
そして、「U理論」・「弁証法」。
これらを、理屈ではなく、血肉にする。

結果として、創発、生成の道に近づく!

感性の共有
深いスピリチュアルな部分への切り込み
ここから、インスピレーションが創生され、共有される!

二項対立の克服について補足すると、
たとえば、企業の「利益追求」対「社会的貢献」の二極対立

経済学は「極大利潤の追求」を掲げて、社会科学的に解明しようとするが、
二項対立の一方に傾くままでは歪む

むしろ、矛盾を受け入れて、経済思想や経営学のいう「社会的貢献」の強調が大切
ここから、企業は「第三の道」へ

ここで重要な考え方が、弁証法
推薦図書:田坂広志『未来を予見する5つの法則』(2008)

・ 螺旋状の発展プロセス
・ 否定の否定による発展
・ 量から質的転化の発展
・ 対立物の相互浸透による発展
・ 矛盾の止揚による新しいパラダイム

これはヘーゲル哲学だが、マルクス経済学が否定されて、弁証法まで否定されている
今では、止揚概念は 「ウインウイン」 などと可愛らしく呼ばれている。(笑)
しかし、「ウインウイン」 では、関係性を変えるという本質的側面が弱い。

量から質への転化とは、水は熱すると高温化するにしたがって質が変わる現象が例。
インターネットの普及で社会が変化することなどの例もある。

自由貿易と保護貿易の二項対立をどうする?
保護貿易を捨て去るとただの弱肉強食になりかねない。

実は、マトリクスで考えれば 「第三の道」 が見えてくる。(ではTPPは?)

そして、第三の道でも、新しいアンチテーゼが現れ、そこからさらに新しいパラダイムが。

開発教育 (国際協力) の課題では、
12期生がインドNGOの視察中だが、彼女とのやりとりが興味深い。

つまり、彼女は支援プロジェクトのモニタリングをしているが、
支援のプロジェクトは根本的な解決とは違うところで進むのが現実。
「対処療法」か「根本的変革」かの二項対立の矛盾が普遍的課題としてある。

どう考えたらよいのか?

結局、国際援助など本当は必要ない方が望ましい。
モニタリングの基準は対処療法であっても住民自身がエンパワーできる支援であること。

そのためにこそファシリテーションが重要~その置き土産が重要。

参加型開発とは似て非なる development。
「主体的発展」 : 「開発」 でなく 「発展」 という日本語がふさわしい。

・・・

いつも時間が足りない!ということが多かったが、今日は早めに収まった。(笑)

AD7期(学習する組織としてのFADセブン)は最高です! (^-^)

6 チェックアウト&サークル

「ADコースをふりかえってどうだったか? あなたの自分事の課題(マイプロジェクト)は?」

トイレ休憩後、とっかかりとして、教壇から・・・

教育畑で教壇に立ってきたが、他にもやりたいことが幾つかある。
それを人生でやり残さないようにしたい。
ひとつのテーマは 「地域活性化と多文化共生」
所沢で 「多文化で協働する地域づくり」
ゆくゆくは、埼玉西部に国際交流協会がないので所沢に創りたい。

みかさん
なるべく簡単にキーワードを拾う手法で、コミュニケーションに活かすこと、創ること。

まゆみさん
考え方が変わった。援助、解決、看護師の課題(悪いところ)を見つけるのが得意になっていた。今までは怒りが原動力だったが未来思考が大切だ。

きゅーちゃん
現在の地域 (福島) にいて開発教育を養成する場を創りたい。
これまでもやっていたけれど、見えていなかった創発の道半ば。

やっちゃん
学生寮の場づくり3年。定期的ワークショップを開催してきた。
うまくいったんじゃないかな? 来年度は別の大学へ。

トッティー
通常よりブラッシュアップされていた。
4月から大学院。ガボンと日本のアートプロジェクトの研究。
学習する組織、話せるメンバーが良かった。

ゆかさん
どんな死にかたをしたいか?これからの生き方を再認識、再確認のきっかけに。

やーさん
2年前はスキルアップ、アクティブラーニング、開発経済の学び直しが希望だった。
予想以上に深くて広い実践の場だった。
今後は、大学で大教室の学生同士が考える、深まる講義を試みたい。
仕事を離れても、様々な合意を求める場に関わりたい。

ヒロさん
メンバーがはっきりものを言うのがいい。
テーマは 「自己肯定観」。それを持っている人はいじめに加わらない。
講師としては、体験型はロジックは苦手、室内型はファシリテーション技術が足りないので、そのバランスを考えていきたい。

ゆたかさん
双方向の授業は増えた。スピリチュアルなスキルをどう深めたらいいのか?課題。

しろーさん
こんなに変われる自分に驚き。社内、ファシリテーターは実現した。
世田谷そばの会で活動しているが言いたいことだけ言ってる会議でファシリテーターをどのようにするか?課題。
地方再生にも関わりたい。50過ぎて、こんなに変われることに感謝。



◇ ふりかえりシートより補足(匿名で10人全員分の抜粋)

声A
 小貫先生の 「私の原点」 のお話を 私たちの My World Cafe で聞きたいと思っていましたが、今日その一部を聞けて良かったです。また、ぜひ!聞かせてほしいです。
 そして、問いを問い直す...という作業、私たちだけでやっていると出てこないものでした...もうちょっといろいろ今後もご助言いただきたい...
 まだまだ学び続けたい。教えていただきたいこといっぱいです。
本当にありがとうございました!!

声B
 今日の小貫先生の講義でいままでもやもやしていたADコースでの学び、通常コースとの違いが明確になりました。
 自分の話し方・聴き方は refrective dialogue にとどまってしまっていることが多く、generative dialogue には到達できていないことに気づきました。
 「プレゼンシング」 : スピリチュアルレベルでの共感を経て新しい未来を創るファシリテーションを是非やってみたいと思いました。
 自分の人生における転換期にADコースで、この仲間と一緒に学ぶことができて本当に
良かったです。今後もなにかしらの形で、この仲間と一緒に、学び続けていけたらとの思いを新たにしました。

声C
 スピリチュアルな部分にまでいかにもっていくか。
アドバンストコースは通常コースには行けない領域への試みだった。

声D
 問いについて考える機会がよかったです。
今までの直線的な考えから変化球的問いのもつ意味に触れることが学びとなりました。
肯定的な議論ができるメンバーのおかげでも学びが深まりました。
ありがとうございました。

声E:
 直球の問いから変化球の問いにすることで、多様な人を惹きつける。
「問いの立て方が大事」 というのはファシリコースの中で何回も耳にしてきましたが、”多様な人を惹きつける” というキーワードに出会って、なるほど!と分かったような気がしました。
 一年間ありがとうございました。FAD7のチェックアウトを聞いて、一生マイプロジェクトだなと思いました。

声F:
 「問い」 の創り方、考え方を学ぶことができました。
また、文献を深く読み込むことが大事だと改めて感じました。

声G:
 二項対立のものを第3極を立てることの重要性。
 問いの立て方 (魅力的なもの) もそうですが、「場」 を創ることも重要だと認識しています。今回の学びを、もしファシリテーターとして立つ機会があれば、心に留めていきたいと思います。

声H:
 弁証法の勉強なんて今までしていませんでした。次は弁証法ももう少し勉強してみたいと思います。
52歳でこんなに自分を変えられるのかとは思っていませんでした。これからも成長できる自分が見つけられて本当によかったです。
 これから成果を出していきます。ありがとうございました。

声I:
 ジェネレイティブ・ファシリテーターの役割とあり方についての理解と、理論でははいものを感じることの重要性を認識した。
 アドバンストコースの5つのコンセプトの再確認と弁証法の日常での応用についての理解を深めた。
 受講生の感想と今後の各自の課題についての表明は、相互の啓発にとって貴重であった。

声J:
 マンディ・ヘイルの言葉に、
「偶然はありません。意味があってあなたの人生に誰かが現れ、意味があってあなたの人生から誰かが出ていくのです。
 あなたは偶然今ここにいるのではありません。あなたが出会う人、あなたがいる場所、すべてが運命なのです」
とありますが、その通りと思える1年間でした。

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