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2015年8月25日 (火)

私の原点(平和学と開発教育)

 「平和学の父」 ヨハン・ガルトゥング氏が来日した。彼の平和学が私の開発教育との関わりの原点のひとつであることを思い起こしている。集団的自衛権がらみで、憲法9条の解釈改憲が強行されようとしている今日、問題提起となるかもしれない 「私の原点」 をまとめておこう。

 私が高校の社会科教師になったとき、「政治・経済」 担当者の私には、授業づくりに際して、ふたつの原点があった。

 ひとつは、大学院で学んだ制度派経済学である。経済思想史を専攻して主に学んだのは、ソースタイン・ヴェブレンの制度学だった。ここには、”生産” を軸とする実体経済と ”虚栄” を軸とする金融経済の矛盾が突き動かす社会発展が構想されている。
 この思想は、金融経済危機を見通した分析を弁証法を駆使して展開している。今日のグローバルな金融資本主義を背景とした開発のあり方を考える際にも、極めて有効な視座を提供していると言える。

 もうひとつは、(究極的には先の制度学とつながるのだが) 教員になってから学んだ平和学であった。そして、むしろこちらの方により直接的な影響を受けた。
 ゆえに、今回はこちらに焦点を合わせてまとめたいと思う。

 私が教師になったのは1979年だが、「政治・経済」 の授業づくりに際して、基調としたのは平和教育だった。
 そこでは、経済 (有効需要の観点、資源確保の観点 等) と戦争の関連を原理的歴史的に考察して、政治経済学的に戦争のない社会はいかに可能かを考察することを軸とした。

 こうして、私の出発点は平和教育だったが、当時の平和教育には大きな違和感を感じた。
 当時の学校現場では、「教え子を、再び戦場に送るな」 をスローガンとして、戦争反対を訴える教育が主流だった。
 戦争の悲惨さを学び、絶対悪である戦争を二度と起こすべきでないと願うばかりの教育のように私には思えた。

 その一環として、修学旅行先は (平和学習として) 広島が選ばれた。戦争の悲惨の学びがそこにはある。被爆者からの聞き伝えは極めて有効だった。
 けれども、戦争の悲惨さ (被害) は強調されたが、加害の側面はなおざりにされがちであった。そして、戦争を憎む心は育ったが、戦争が生まれる状況とはいかなるものか、戦争をなくすためにはどうしたらよいのかの認識形成はあいまいにされがちだった。

 そんなとき学んだのが平和学である。特に、ガルトゥングの 「構造的暴力」 の理論に大きな影響を受けた。
 構造的暴力とは、世界の紛争の火種となる抑圧状況である。平和とは、ただ単に戦争がないだけではなく、構造的暴力を極力なくそうとする関係性を土台にした状況を意味する。
ガルトゥングはこうした状況を、”戦争のない平和” を超えた 「積極的平和」 と呼んだ。
 平和とは、絶え間ない努力によって構築されるものである。

 こうした考え方は、現政権が唱える 「積極的平和主義」 とはまったく異なる。極論すれば、「構造的暴力」 をそのままにしてミリタリーバランスを考える危うさとは真逆である。

 では、どういう世界を築くことが平和を構築することになるのか? そうした問題意識に真正面から応える学びとして私は開発教育に出会った。
 私は、こうしたプロセスを原点として、開発教育に入ってきたのだった。

 開発教育は、誕生初期には 「国際協力のための教育」 であり、これがアイデンティティであるが、その背景に、「公正で共に生きることのできる社会」 を構想している。そういう平和な社会はいかなるものかを考え続けながら、世界でそして足元の地域で開発のあり方を問い続け、生き方 (行動) につなぐ学びが開発教育なのである。

 私が関わった生徒には、国連職員になりたいと希望する生徒もいたし、青年海外協力隊に参加したいという生徒も出た。
 しかし、そうした顕著な行動を志向しなくても、開発教育の考え方で生き方を考え、有為な有権者となってくれれば、教育的使命は果たされたと言えるのではないだろうか?
 私は今年度一杯で、現在の大学を定年退職するが、教師としてはいつしかそんなことを考えながら今日まで来ている。

 ポイントは教育の中立性だが、教師は自らの考え方を教え込みの授業で押しつけるのでなく、生徒の主体的思考を促し、話し合いを十分に保障することが重要である。
 教師は参加型である 「対話型授業」 のファシリテーターである。


 最後に、20年程前に作成した参加型教材のカード内容をここに書き残しておきたい。
 県教育委員会の教育課程編成のお手伝いをするようになった頃、学習指導案の活動事例として提供したものである。

★ 特設科目 「 国際関係 」 の教材

 (例1) 「平和の概念と紛争原因への取組」 (ランキング)

平和とは、

1.戦争のない状態
2.世界で民主的かつ自治的な政治が実現すること
3.人権が守られ差別と偏見がなくなること
4.軍縮の実現
5.科学技術の平和利用
6.世界各国の国際理解の深まり
7.強い国連をつくること
8.環境が地球的規模で保全されている状態
9.南北格差の排除


(平成5年3月  『 埼玉県高等学校教育課程編成要領
          各教科・特別活動資料編--指導資料-- 』 より )

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