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2012年3月12日 (月)

第10回研究会 (「学習する学校」をめぐって)

 今年度最終回の開発教育システム思考研究会では、近くまとめる報告書に向けた原稿のうち、2本の論文内容を共有した。2本とも非常に興味深い内容であったので、その概要をまとめよう。

 共有したのは、金沢氏の 「『学習する組織』を学校に活かすために」 と大澤氏の 「学校教育における『学習する学校』化の意義」 である。共に、ビジネスにおける 「学習する組織」 論を 教育に 「学習する学校」 論として活かすことに関して考察している。

 前者は、ピーター・センゲがその著 ”Schools That Learn” (2000) のなかで主張する、①  「新しい知」の在り方、② 「省察・対話」、③ 社会関係網の中での教育の再統合、の3項目に着目し、それらを日本の教育状況にどのように活かしていくかを深めた。

 後者は、やはり、センゲの著作によりながら、学校教育が 「学習する学校」 を導入することの意義を、日本の社会構造の変化を歴史的に考察しながら、如何にかつどのように生徒の効用となるかについて深めている。

 まず、金沢氏は、「新しい知」 に関して、近代の産業時代に対応する断片化された知識を身につける教育では現代の変化の時代には対応できないというセンゲの主張にそって、「新しい知」 を創造する社会構成主義的な学びの必要性を考察する。そして、小玉重夫の説く、教科外でも判断力や民主主義を身につける総合学習の重要性を紹介している。

 本来、学びの根本には省察と対話がある。ここでは、センゲが説いた 先入観としてのメンタルモデルを克服する 「ダブルループの省察」 に触れながら、省察的コミュニケーションを図ることがゆたかな 「学び合い」 を促進するものとする。しかし、日本の状況はコミュニケーションの要素が弱体化している。ゆえに、「語り」 を通して  「意味」 を構成し 「関係」 を築き直す授業実践がますます重要性を増していると結論づけている。

 さらに、「学習する学校」 は 「社会関係網の中での教育の再統合」 が必要である。地域コミュニティなど全体的ネットワークの発展とつながりを持つことが望まれる。金沢氏は、これに関する学校の実践事例として、高知県高知商業高校の教育実践をあげた。教科外の特別活動(生徒会活動)を軸とした 「総合的な学習の時間」 が、ラオスとの交流から、学校建設、更には地域との共同にいたった総合学習として紹介している。

 続いて、大澤氏は、「学習する学校」 に関して、学校教育のあり方を問う視点を強調し、特に 「社会関係網の中での教育の再統合」 を軸にしながら考察を進めている。

 センゲの 「学習する組織」 の定義とは、「人々が絶えず、心から望んでいる結果を生み出す能力を拡大させる組織であり、新しい発展的な思考パターンが育まれる組織、共に抱く志が解放される組織、共に学習する方法を人々が継続的に学んでいる組織」 である。それを学校教育に適用するとはどういうことだろうか?

 センゲは学校における学びを、①主体的な学習、②多様性の尊重、③正解のためというより相互依存の世界の理解のための学び としている。(中村香)

 しかし、現状では、「学習する組織」 論の中心は学校経営に焦点がある。対して、大澤氏は、「学習する学校」 論として捉え直すことと、どうすれば学校教育のあり方を変革できるかを問う必要があるとする。

 歴史的にみて、近代社会において、国民形成と工業化に対応した人づくりの教育システムには学校と地域が離れていく構図があった。今日では、このことが大問題なのである。

 センゲが 「社会関係網の中での教育の再統合」 を説くとき、現実には社会的つながりが弱体化し、個人化ばかりが進んでいる実態がある。コミュニケーションを苦手とする傾向は、それを仲立ちとする学習を阻害する。

 今日の社会で求められるのは、社会環境に身を委ねるのでなく、主体性を発揮して変化に対応する力である。それこそが 「学習する学校」 において養われるものだし、センゲの「学習する組織」 の5つのディシプリン(自己マスタリー、メンタルモデルの克服、共有ビジョン、チーム学習、システム思考)の学校教育への適用の成果である。

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 今回は、「学習する学校」 をめぐっての研究を深めた。研究会にとって、「学習する組織」 論からくる 「学習する学校」 のあり方と 「対話(ダイアログ)」 を通しての学びのあり方は重要な柱である。

 これらを共有したことには大きな意義があったと思われる。   

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