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2011年8月15日 (月)

アダム・カヘンに学ぶ

これまで3日間、「開発教育ファシリテーター」とは? について思索してきた。焦点としては、「学びの問題解決ファシリテーター」 であると同時に 「社会の問題解決ファシリテーター」 であること、その方法論の軸は、”ダイアローグ” のファシリテーションであることを展望してきた。本日はそのプラスαをまとめる。

これまでの思索は、既刊 『開発教育で実践するESDカリキュラム』(学文社、2010) で展望した 「地域を掘り下げ、世界とつながる学びのデザイン」 と軌を一にしている。

そこでの私は、カリキュラムをテーマにしていたが、ここで考えている実践上のテーマは、次の機会に持ち越している。

地域での問題解決、”ダイアローグ”、「学習する組織」、システム思考、「U理論」 などのキーワードからの展開は、開発教育でもっと普及すべき、と私は考えている。

すなわち、開発教育は世界の現状を知る教育であり、貧困~開発~国際協力を軸として、知り・考え・行動することで ”生き方” の選択にもつながる。けれども、国際協力をゴールとするゆえに、足元の問題解決を軽視しがちであり、それらに共通する問題解決の方法論の探求が不足している、と私は考えている。

・・・

さて、本題に戻って、問題解決のファシリテーションをアダム・カヘンに学ぼう。氏が、南アフリカのアパルトヘイト後の混乱のなかで為したこと、グアテマラで内戦を終結させるために為したことなど、さまざまな実践からエッセンスを抽出しよう。氏の実践には、”正解” のない、創造的な選択肢が問われる状況下で悪戦苦闘する事例が満ち満ちている。

会得すべきポイントは3つ。A. 話し方・聴き方、B. U理論、C. シナリオ・プランニング である。(『手ごわい問題は、対話で解決する』、『未来を変えるためにほんとうに必要なこと』)

A. 話し方・聴き方

改めて言うまでもなく、ここで重要なのは (生成的な)”ダイアローグ” である。参加者がオープンに語り合い、その 「意味の流れ」 のなかで、「意味を共有」 し、新しい意味や行動を生みだしていく。

アダム・カヘンは、話す・聴く において、心を開くこと(an open way)を強調している。そこでの前提は、メンバーが相互につながり合う関係におけるエネルギー空間であり、全体をとらえる共感を共有している状況としての 「場」 である。「場をつくり、場を読む」 ことの真髄はここにある。

協力者である オットー・シャーマー は、聴き方を4つに分類している。① 賛同することだけを聞く 「ダウンローディング」、② 客観的に聞く 「ディベーティング」、③  共感して聴く 「リフレクティブ・ダイアローグ(内省的な対話)」、④ 障壁を超えて全体像に達する 「ジェネレーティブ・ダイアローグ(生成的な対話)」 である。

B. U理論

同じく オットー・シャーマーは、創造的な問題解決のプロセスを Uの字のプロセスとして論じている。ファシリテーターは、問題解決のプロセスで、このU字形を描く 3つの変革プロセス を見据えることが重要である。

第一の動きは、「センシング」 で、U字の左を構成する下降ライン。変革しようとするシステムの現実を感じ取ろうとする内的感覚を発達させて底に降りていくプロセス。

第二の動きは、「プレゼンシング」 で、U字の下を構成する底辺ライン。より深い知と向き合うプロセス。

第三の動きは、「リアライジング」 で、U字の右を構成する上昇ライン。深く知ることで、新しい現実を生みだすために行動するプロセス。

この「U理論」は、参加者をより高次の自我につなぐことによって、集団的なイノベーションが実現するプロセスを説明するものである。

C. シナリオ・プランニング

シナリオという手段を通して未来を見通すことは、国際資本である ロイヤル・ダッチ・シェル社の代表的方法論である。シェル・グループは、1973年の石油危機、1989年のロシア崩壊などをこの シナリオ分析 で言い当ててきた。有能なシナリオ・プランナーが何人も育っているが、アダム・カヘンも、ここを巣立っている。

ここでのシナリオとは 「未来を見通す客観的ストーリー」。システム・ダイナミクスでは、コンピューターを駆使してデータ分析するが、シナリオ・プランニングは複数のストーリーを描き出す。

事例は幾つもあるが、ここでは代表例として、アパルトヘイトから議会制民主主義への移行を支援した 「モン・フルー・シナリオ・プロセス」 の時系列の整理に的を絞ろう。

(1)1991年9月、第1回ワークショップ。(当時の南アフリカは、アパルトヘイト後の混乱のなかで、誰もが、力の支配ではない解決策を見い出すことを願っていた。参加者は、南アフリカに影響をもつ22人のリーダーたちである)

まず、バックグラウンドが異なる同士のグループで、「今後10年間に南アフリカで起こり得るシナリオ」 のブレーンストーミング。それによって、30以上のストーリーを生みだし、これらを組み合わせて9つに絞り込んだ。そして、シナリオを肉づけするために、社会・政治・経済・国際 の4つの次元に沿って、サブ・グループを作成した。

休憩中は、山を散策したり、バレーボールやビリヤードをして遊び、夜は、ラウンジで何時間も語り合う機会を設けた。

(2)1991年12月、第2回ワークショップ。

9つのシナリオを検討し、国の現状を踏まえて最も現実的と思われる4つに絞り込む。

ワークショップ後、参加者は、各自の組織やネットワークに4つのシナリオを持ち帰り、検証を行った。

(3)1992年3月、第3回ワークショップ。

最終的なシナリオの記述内容を見直し、洗練する作業を行う。

それを、公表し、周知していった。

(4)1993年8月、第4回ワークショップ。

各政党の政治家をはじめとする幅広い参加を得て、シナリオの理論を紹介し、検証。。

・・・ こうして、「南アフリカの政権移行はどう進むのか、そして、国は再出発することに成功するのか」 という課題に応じて4つのシナリオが成立した。① 白人政府が大多数を占める黒人と分裂したままの 「ダチョウ」シナリオ、② 政府がすべての人の要望に応えようとして力が弱まってしまう 「足の悪いアヒル」シナリオ、③ 黒人政権が成立するものの、経済を崩壊に導く 「イカロス」シナリオ、④ 全体がゆっくりと共に立ち上がり、政権移行していく 「フラミンゴの飛行」シナリオである。

わずか1年余りの期間だが、ファシリテーターの 「オープンな方法」 によって、共に話し、共に取り組み、未来を創り出すためのアウトラインが合意されたのだった。

重要なのは、こうした取り組みは、”システム的” で、”創発的” で、かつ ”参加型” のプロセスゆえに可能だったことである。

・・・

氏は、2008年に、移行期で混迷する南アにもう一度関わっている(「ディノケン・プロジェクト」)。何度もワークショップを実施し、最終的に3つのシナリオが成立した。この時期は、南アの混迷はより深まっており、集団志向(過度の均質化=力不足の愛)と断片化(過度の分化=愛不足の力)の間を揺れ動くことになった。最終的には、多様性と情報へのアクセスをカギとして集合知に至り、人間関係を重視することで、連帯的な 「力」 を引き出している。

「愛なき力は無謀で乱用を招き、力なき愛は感傷的で実行力に乏しい」(キング牧師)

社会の力ある層が特権を自ら手放すことはあり得ない。力に取り組まない対話は、新しい現実を創造することはできない。ゆえに、自己と他者のエンパワーメントを促すとき、つまり、自己を完成させ、成長させるとき、愛は生成的になる。合意形成のプロセスには、内なる変化を促し、組織的な変化を果たすことが必要である。

・・・ ところで、こうした営みは国家のリーダーたちのものであって、私たちには無関係と感じるかも知れない。けれども、そうではない。身近な集団や地域社会にも普遍的な方法を含んでいると考えられないだろうか? ここから、私たちは、地域で活動することで、世界の人びととつながることも可能となるのである。

”ダイアローグ” やシナリオ作成の具体的方法については、別の機会に、まとめよう。。

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コメント

「南アフリカの経験から学ぶ」が、私のこのお休みのテーマでした!
「エンドゲーム ~アパルトヘイト撤廃への攻防~」「インビクタス~負けざる者たち~」という2本の映画を見ながら、問題を解決するとは?そこで求められる役割とは?の2点について考えました。
現在、DEARでは「地域に向き合うファシリテーター」について議論がなされています。また、今回の研究誌では、コミュの地域での活動について紹介する機会をいただきました。
そして、久々におぬきさんのブログを拝見して、「!」というように、すべてがつながった感じがしました。

南アとは、問題の困難さは大きく異なりますが、やはり足元の地域でも問題解決が必要とされています。
私の住む地域の背景からは、「行政評価」と「地域における意思決定」においてどのように関わることができるのか、という点がコミュからみた現在の課題です。
私は、自らの地域で住民としてファシリテーター的に関わりながら、自身の力量を高めさせてもらっている、そんな感覚です。この経験を、国際協力の場で活かせるように、日々、地域における問題や課題に向き合っていこうと、また気持ちを新たにすることができました。
ブログで学ばせていただけること、感謝します。

椿原さん、お久しぶりです。
椿原さんの地域での活動を、私は心より応援いたします。
当方の所在地でも同じような課題があります。行政評価には市民の評価が必要です。それを基にした合意形成はいまだ課題です。
地域の「開発」に目を向ける動きは、DEARと同じく、国際理解教育学会などにも見えてきています。
開発教育の実践としても、地域からの活動を大切にしていきましょう!

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